『甘粕正彦 乱心の曠野』佐野眞一著

 いまどき「甘粕大尉」のことを、どれだけの日本人が知っているのだろうか。自分が、薄ら薄ら知っていた「甘粕正彦」についての話は、次の2点である。一つは、アナーキスト大杉栄を、大震災のどさくさで虐殺した。もう一つは、古代日本の謎とされている好太王碑の碑文を改ざんした下手人ということである。どちらの話も、はなはだ許すことのできない「話」なのだが、真相は何なのか、前者についてはほぼ、全容が分かったし、後者については、まったく触れられていなかった。
 甘粕が憲兵になった経緯は、乗馬事故だったそうで、岸信介のひきがあったらしいが、本人が望んだ役職ではなかったようだ。甘粕談で、一種の衝撃を受けたコメントは「軍人というものは、人殺しが専門なのです」に続いて「一種の気ちがい」だというものである。彼自身が、その歯車の一つとなって「人殺し」の汚名を着させられたまま、自殺したのだった。ただし、真相は、彼は大杉一家殺しの、直接の下手人ではなくて、彼が組織の中で、汚名を一身に被ったことは、明白なようだ。客観的な証拠は、田中隆一の「死因鑑定書」で、胸部ノ受傷ハ頗ル強大ナル外力(蹴ル、踏ミツケル等)ニ拠ルは、甘粕の単独犯の供述を覆すものだ。彼自身は、積極的に、自分の無実を話していないが、それは彼が軍という組織を、守るためであり、彼自身は「歴史は嘘だ、本当のことを知っている人は話さない」と述べている。詳しくは、本書を読んでもらうしかないが、決定的な証言は、彼の陸士の同期生である、半田敏治の遺言である。「甘粕は大杉一家殺害事件には全く関係ないことを、遺族に伝えよ」というものだが、これは、彼が「だれにも漏らしてくれるな」という甘粕との約束を、死の直前に裏切ったものだが、それだけに、真相である可能性が高い。それにしても、大杉一家殺害事件というのは、余りにもおぞましいもので、日本近代史の汚点であることには、間違いはない。

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