「日本のいちばん長い日」文庫本バージョン

 映画の中で、関心があったのは、昭和天皇の言葉だった。映画を見る前に、たまたま「私自身がいかようになろうとも、私は国民の生命を助けたいと思う…」という一言で、ポツダム宣言受諾が決定したことを、聞いたので、このシーンがが出てきた時には、胸にジーンときた。ただ、映画の方は、その後も、ごじゃごじゃと恐るべき混乱が続いて、何が何だか分かりにくかった。そこで、原作の文春文庫の決定版を読んでみた。その中で、昭和天皇の、その他の言葉も知ることができた。一つは、8月12日に、昭和天皇が、皇太后に会い、これが最後になるかもしれない、とあいさつした、と言うことだった。このことは、ポツダム宣言の受諾が、陸軍の反対にあって、自分の命も危険な可能性がある、と言うことを感じていた、ということになる。事実、現実に、8月15日未明には、近衛歩兵の一団が御所に侵入した。この時、天皇は「兵を庭に集めて、私が出て行って、じかに兵を諭そう」と話されたそうなので、十分すぎる覚悟をしていた、ということになる。
 歴史上、二・二六事件と五・一五事件と二つのクーデターに類する事件は、有名である。しかし、八・一五事件も、これらに匹敵する事件だったようだ。しかも、軍部の3ヶ所で、同時進行的に計画され、かつ実行されていたのだから、今考えても、ゾッとする話である。そもそも、陸軍には、公然とした、クーデター計画があり、梅津参謀総長と阿南陸軍大臣が反対して、計画が白紙になった。しかし、クーデターにシンパを感じる相当数の人たちがいて、その中の中心人物が、畑中少佐であり、陸相の信頼の厚い部下だった。彼の側から物事を見れば、惜しむらくは、地位が低かったことのようだ。彼は、同じレベルの将校には、熱弁をふるって、多くの賛同者を得ていたが、決め手は、旗頭となるリーダーだった。なんとなく、歴史を振り返ってみると、関ヶ原の合戦の時の、石田三成を思い出してしまった。事実上のリーダーではあったが、旗を振るだけの、身分が不足していた。この時に、計画されていたこと(兵員動員計画)は、陸軍大臣、参謀総長総長、東部軍司令官、近衛師団長の4者が一致することだった。ただし、現実には、この中の一人でも、ゴーのサインを出せば、クーデターは、成功していた可能性があると感じた。畑中は、これらのリーダーを説得する「階級」の将校を、必死で説得して、事実は、近衛師団長の説得には、半ば成功する。陸軍のビッグ4のうちの一角が、崩れたかけたのだから、クーデターは、4分の1ぐらいは成功したようなものだったが、現実の「神様」は、クーデター派を、理不尽と認めたとしか、言いようがない。
 もう一つの計画は、佐々木大尉率いる「国民神風隊」だった。軽機関銃で武装して、トラックや乗用車に分乗して首相官邸へ向かった。現実に、ここへの突入は成功して、灯油をまいて、火をつけるところまで行った。鈴木首相は、その時、自宅にいたので、ここも襲撃されて焼かれたのだが、危機一髪で、脱出したとのこと。天皇でさえ、命の危険を感じていたのだから、首相も覚悟はしていたのだろうが、国家としては、無様なことになるのだから、良かったと、言うべきなのだろう。
 第三のグループが、海軍の小園大佐の動きだった。「無条件降伏には賛同しない。いかなる事態が発生しても断固抗戦を継続する。私が司令の職務を汚す限り、厚木飛行隊は断じて降伏しない」これらが、小園大佐の言葉だが、微妙な時期に、彼が病気になり、行動がとれなかったようだ。
 彼らに共通していることは、聖断がどうであろうと、軍全体の意志がどうであろうと、自己の信念に忠実に生きようという、自分本位の考えであり、大元帥の命令といえども、間違いと信ずれば、諫止するのが真の忠節という、理屈になってしまった。
 このブログを作成中は、安保法制が秒読みの段階だったが、ついに成立してしまった。巷では、戦争法案ということで、反対運動が盛り上がった。個人的には、安倍氏が米国で、勝手に「夏までに」などと約束して、本来の主人である国民の意向に反対してまで、強引に米国に尻尾を振った事実が、一番気に入らない。
 実は、平和憲法だったドイツワイマール憲法から、ナチスが発生したように、どのような憲法や法律であっても、国民がしっかりしないと、戦争に引っ張られてしまう。歴史から学ぶことは、理屈は、どうにでもくっつけられる、という恐ろしさである。最終的には、「狂気」を生み出さないように、教育の中立性が保たれるか、ということと、同じく、報道の自由が守られるかどうか、の2点のような気がする。安保法制は、もちろん重要なことだが、人間そのものが、何を考えて行動するか、ということが一番重要な気がする。我々は、心眼を育てて、見守る必要があるだろう。
 P.S.この本は、現在は、半藤一利著となっているが、当初は、大宅壮一編になっていたそうである。半藤氏は、いわばゴーストライターだったわけだが、その一つをとっても、時代を感じてしまう。

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